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【考察レポート】パチンコ〝アイドル店員〟のPRがもたらす新たな文化

パチンコ店へ足を運んでいた顧客の戻り率がコロナ禍の影響によって2割から3割ほど減少したとされるなか、ツイッターなどを中心とするネット空間ではパチンコ店の従業員によって展開されるPR活動がにわかな注目を集めている。すなわち「アイドル店員」と呼ばれる女性たちの活動だ。

「情報島」においても「アイドル店員」たちのインタビュー記事をいくつか掲載してきたが、彼女たちの活動に対し、「若者をまき込む新たな切り札」と評価する声が聞かれる一方、「集客に結びつかなければ意味がない」といった否定的な見解も少なからず聞こえてくる。そこで今回は、「アイドル店員」のPR効果について考えてみた。

「語りかけ」への転換

『アリーナ川口店』の〝あゆちゃんまん〟さん

「埼玉県全域のパチンコ店は新型コロナによる営業自粛が明けたあと、顧客の戻り率は7割台に落ちていました。しかし、当店にかぎっては〝あゆちゃんまん〟(ハンドルネーム)の活動により平均83%(本年10月6日時点)にまで回復しています」

こう語ってくれたのは、『アリーナ川口店』をはじめ、三慶商事(本社・埼玉県川口市)が運営する『アリーナ』全店の「アイドル店員」たちを育てた〝プロデューサーやじお〟(同)氏。新台の告知や新しく入荷した景品などをツイッターやブログで紹介する試みは業界内でもすでに広くおこなわれてきたが、〝やじお〟氏はこれをさらに進化させ、女性アルバイトのひとりにすぎなかった〝あゆちゃんまん〟をパチンコ「アイドル店員」の先駆者かつ、フォロワー数1万人を超える人気者に成長させた。秘訣は〝あゆちゃんまん〟の個性を全面に押し出した点に尽きると言っていいだろう。ホール企業や店が組織的におこなうPRではなく、「アイドル店員」が自分のことばでメッセージを発信。担当者の顔もツイッターにUPすることで閲覧者の親近感を高めた。つまり、無機質で一方的な広告から双方向性をともなう「語りかけ」への転換だ。

「会社の上層部は当初、『稼働にどれほど貢献するのか』とさすがに懐疑的でした。しかし、アイドル店員を通じて店の認知が広がれば、いずれ稼働にも結びつくと考えていました」(〝やじお〟氏)

これまでインタビューに協力してくれた各店の店長たちもほぼ同じ意見をもち、ツイッターの担当者にはむしろ、「集客のことは気にせず、楽しみながらつづけてくれ」とアドバイスするに留めていた。日常的にツイッターを利用しているユーザーたちにとって〝商売っ気〟が色濃いPRはおそらく嫌われる傾向にあるのかもしれない。稼働より「アイドル店員」に〝会ってみたい〟と思わせる戦略を優先した結果なのだろう。「アイドル店員」たちも「県外から訪ねて来てくださるお客さまが増えた」「常連の方々とは違うお客さまをみかけるようになった」と語っていた。

深まるコミュニケーション

『トワーズ麻溝台店』の〝モエ〟さん

PRを担当する女性従業員のアイドル化は、店の周知ばかりではなく、そのほかにもいくつかの効果をもたらしている。代表的な例は、常連客との深いコミュニケーションだ。『トワーズ麻溝台店』(神奈川県)の〝モエ〟さんは次のような話をしてくれた。

「自分の趣味や日常の風景などをツイートしたことでお客さまと会話する機会が多くなりました。遊技に負けてしまったお客さまが『ま、モエちゃんの顔がみられたからそれで満足』と言ってくださると、なんだかずごくホッとします」

つまり、負けた顧客の〝ガス抜き〟効果も親密なコミュニケーションがあってこそ。従業員がまず自分をさらけ出さなければなかなかこうはいかない。とくに遊技機の設置台数が多い都市部の店では客とのコミュニケーションが深まりづらく、ツイッターでの自己紹介はその一助になるはずだ。

さらに「アイドル店員」の活動は、彼女たちと客のコミュニケーションを深める効果にくわえ、アルバイトの募集にも役立つらしい。同世代の女性たちが楽しくツイートするようすを知り、応募してくる人たちが少なくないという。もちろんすべての応募者がアイドルに選ばれるわけではないにせよ、日々のツイートは職場の雰囲気も伝えてくれる。離職率の低下も期待できるのではあるまいか。

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