前回のコラム「【金丁回顧録#3】あなたはどっちの曲がり?」
皆さんは、だるま釘と言うのをご存知でしょうか?
本来、盤面に打ち込まれている遊技釘は根元から先まで真っ直ぐな状態なのですが、このだるま釘という状態は何故か根本の方が膨らんでおり、その様子があたかもだるまのように見えるためそのような呼称になったと記憶しています。
初めてこの釘整備に出会ったのは、学生時代の某チェーン店でのハネモノの1始動、つまり落としと言われる袴釘の下部に鎮座する1回開放入賞口です。
当時、パチンコに関してはユーザーとしてビギナーの状態であり、パチンコの魅力に取りつかれ始めたころですが、明らかに他のお店のそれより一見閉めてあるように見えたので、どうせ出しはしないだろうと思いながら遊技を開始しました。
ところが、これが思いのほか良く入るのです。なんでこんなに入るのか理由がわからず、袴の絞りが良く、玉の軌道が入賞口に完全に合致しているのかとも思いました。ただ、袴釘付近を通過する玉の動きを観察すると、結構乱雑で良い状態には見えないため、この高入賞状態が不可解でした。
当時の釘師と言われる人達は独自の整備手法を持っており、お店ごとに異なる整備状況があるのは気付いてましたが、明らかに締めて見えるこのだるま釘の手法は何のメリットがあるのか良くわかりませんでした。
それから月日が経過し、仕事としてゲージ設計に携わるようになり、学生時代に知識として持ってはいなかった2つの事柄がこのだるま釘の存在理由のなぞ解明に大きな影響を与えました。
1つは、基本的には入賞口の命釘は11ミリ未満で設計されることが多く、真っ直ぐの状態では入賞しないピッチになってしまう機械が多いこと。(当時)
2つめは、機械取り付け傾斜は4分5厘(約1度)で設置されることが多く、その影響で盤面上を飛び交う遊技球の70%程度は釘の根本部分を通過していること。
この2つです。この2つの事実からだるま釘の意図が見えてきます。
つまり、遊技球は多くの場合、釘の根本部分を通過するので、釘先端部分の幅よりも釘根本部分の幅の方が重要ということです。もちろん、玉は前後に滑るような動きもあるので先端部分の幅が全く意味をなさないというわけではありませんが、根本部分の幅の大小の方がより重要というわけです。
だるま釘というのは、一般的な整備におけるよく開けた状態に匹敵する効果があるというわけです。また、より多くの玉が集まる箇所がほぼ均一の幅を持っているため、入賞の安定性も高いと思われます。
考えてみると、当時たくさん存在したパチプロが釘の開け閉めを読む時、通常の調整では命釘(入賞口の釘の総称)の変化を容易に見抜かれてしまいがちです。一般的には板ゲージ2枚、つまり0.5ミリの変化は誰でも見抜けますが0.25ミリの変化はプロでなければ見抜けないと言われています。
しかしながら、この先端部の0.25ミリの変化は根元ではおよその3分の1程度の変化に過ぎないため、実質0.1ミリも変わらないのです。ここに、だるま釘のプロを欺く効果が出ているのではないか?
つまり、このだるま釘は仮に同様の効果を期待する整備を施しても、それこそ100分の1ミリ単位でしか変化しないため、気付かれない可能性が高くなるというわけです。
このだるま釘というのは、ゲージ棒を当ててハンマーで行うことも可能ですが、一般的には平ペンチで行い、俗に言う“腰を折る”という整備を行います。その後、いろいろな釘師さんと出会い、釘整備にハンマーを使わず、この平ペンチだけで行う方もいらっしゃる事がわかりました。もちろん、平ペンチはだるま釘を施す目的以外でも普通に開け閉めとしても使えますから、ある意味ハンマーよりも使い勝手が良いのかも知れませんね。
ちなみに、私は釘に当たる時の音が好きなのでハンマーを使っていました。
つづく
はじめまして。
詳しい釘解説、ありがとうございます。
昔は釘の頭だけを開けて根元を開けない「騙し釘」がよく見られましたよね?(笑)