「客単価」すら分からないなんて。私がパチンコ業界に入ってから驚いたことは数多くあったが、これもその一つである。
そもそも1日に何人のお客様が来てくれたか、そんなこと誰も知らないよと言われて本当にビックリした。物凄い金額が動く業界でありながら、管理できるのは全て「台単位」だけ。遊技台ごとに幾らの売上があったのか、幾らの利益が出たのか。その積み重ねでトータルの数値は出てくるものの、お客様一人一人が幾ら使ったかなんて分からないのだ。
なんせ大半のお客様が(景品交換する必要もなく)POSレジに向かわずに帰られるのだから。ゲームセンターなんかと一緒だよと言われて、なるほどと理解する。ただしそうなると「お客様の数は年々減り続けている」「一人のお客様が使う金額だけ増えてヘビーユーザー化が進行している」などと、さも分かったように論評していることに違和感も。
もちろん現場における肌感覚はある程度正しくて、お客様が減っているのもヘビーユーザー化が進んでいるのも事実なのだろう。でも、何人・何%減っているか誰も知らないなんて、そんなのやっぱりおかしいと思う。いやいや、「レジャー白書」で出ているからと言われても、あんなマクロな統計データではお話にならない。
これが、私達が「顔認証システム」の開発を始めたきっかけである。むろんエンジン自体を一から作れる技術はなかったので、大手メーカーから提供してもらったのだった。誰もが知る一流メーカーの(当時)最先端技術故に、本来であれば相当の対価を支払わないと使わせてなどもらえない。ただ、パチンコ業界における無限の可能性を評価してくれて、格安で提供してくれることに。我々にとっては非常に幸運だったものである。それが今から8年ほど前の話だ。
なお、「顔認証システム」自体については今更深く説明する必要もないだろう。デジタル画像から顔部分を抜き出し、特徴点をデータ化することで「性別や年代を識別」したり「データベース上の人物と同一か否かを判定」することが出来るものだ。特に後者についてはTVドラマなどでも良く出てくるため、一般の方でもイメージしやすいはず。
ちなみに当時の技術でも、(正面から撮影された画像同士を見比べると)ほぼ100%に近い精度を誇っていたものである。こんな素晴らしい技術を使えるのだから、パチンコホールへのシステム導入などトントン拍子に進む。そんな風に軽く考えていたのが大間違いだった。
「正面から撮影された画像同士」だったら100%。でも「斜め上や横などから撮影された画像同士」では、どう頑張っても90%が精一杯だったのだ。来る日も来る日も試行錯誤を続けること4年間。実際にパチンコホールでフィールドテストも繰り返したのだが、残念ながら100%に近づけることは最後まで出来なかったのである。
そう聞くと、いやいや「90%でも十分なんじゃないか」、そう思う方も居るかもしれない。たしかに90%の精度といえば聞こえは悪くない。ただし裏を返すと「10%間違ってしまう」ということ。これが何を引き起こすか。
その話の前に。
顔認証システムをパチンコホールに導入することで、いわゆる「顧客リスト」が出来上がるはずだった。別に顔写真や名前が欲しいのではない。来店客一人一人の遊技動向がデータベース化されることで、例えばリニューアルオープンした際に「完全新規の顧客が何人きたか分かる」「1年ぶりに来店してくれた顧客が何人いたか分かる」「顧客一人一人が何をどれだけ遊技して幾ら使ったか分かる」などなど。ホール運営に有用なマーケティングデータが収集できることこそ、最大の目的であり利点だった。
つまり顔認証システムにより、初めて来店した顧客をまずはデータ化する。そして次に来た顧客をそれと見比べて同一人物か否かを判定し、別人であれば更にデータ化する。それをひたすら繰り返していくのだが。この過程で「10%の間違い」が起こるのは文字通り致命的なのだ。
もう何年も通っている常連客を「新規客」として再登録してしまうくらいならば、まだ可愛いミス。最大の問題は全くの別人同士を一人の顧客としてデータ統合してしまう誤りである。これが起きると、もうマーケティングもくそもなくなってしまう。(1日に数百人のお客様が来店される店では)こうしたミスが毎日何度も起こるのだから、「顧客リスト」のデータベース化など正に夢物語だった。
このように、(少なくとも4年ほど前までは)パチンコ業界で本当の意味での「顔認証システム」など運用出来ていなかったのが実態だ。もちろん、入口付近や遊技台周辺に「顔認証システム」を搭載した設備は多数あって、実際に導入しているパチンコホールも沢山あった。
しかし、その使用用途はせいぜい「当日に何人の顧客が来たか」とか「犯罪者の顔写真など事前にデータ化されているものと見比べる」といった程度が関の山。パチンコファンの一部が妄想するような「特定の顧客を見分けて何か悪さする」といった使い方が出来るほど、パチンコ業界は進化していなかったのは間違いない。
では、それ以降はどうなのか。
業界団体の会合などでも「依存症対策で使えるのでは」、そんな風に話が出ていた時期もあったし、既存の周辺機器メーカーは開発を続けていることだろう。それでも、大きく進歩したという話は全く聞かれないのが現実である。
ましてやコロナ禍によって全員が「マスク」を着用している現在では、顔認証自体の難易度が飛躍的に上がっているはず。また、同時に「各台計数機」の普及が更に進んだことで(もはや顔認証などに頼らずとも)普通に「会員カードシステム」による顧客分析の方がコストパフォーマンスが高いのは明らかだ。
というわけで、パチンコホールが「顔認証システムを使って何か悪さをしているんじゃないか」などと考えている人は、どうか安心して欲しい。
そして最後に、一業界人として言わせてもらうと。
「全台が各台計数機で、会員情報が膨大に収集できているパチンコホール」においても、そのデータを直接的に活用出来ている店舗は無いに等しい。そう言っても過言ではないことだろう。それくらい、顧客単位でのマーケティングに興味を持っているホールは少ないままなのだ。相変わらず「台単位」での分析のみに終始する、この点では10年前から何一つ進歩していないのが甚だ残念でならない。
いかさま業界が火消しに必死で草ww
パチンコ屋に行くと悪さするから顔覚えられてると思ってる
1000ハマりとか当たり前に食らうから顔認証システムあると思ってる
日本の技術あれば何でも出来るよね