熾烈な採用競争とミスマッチ
毎年「大卒求人倍率調査」の結果を公表しているリクルートワークス研究所のデータによれば、来年卒業予定の大学生や大学院生が対象の求人倍率は1・83倍で前年よりも0・05ポイントの下落となり、8年ぶりに減少したとされるものの、依然として高水準を維持。従業員が300人未満の中小企業は8・62倍でこちらも高水準がつづく。大企業をのぞけば人材確保のむずかしさはいずこも同じ。熾烈な採用競争をいかに勝ち抜き、ホール運営各企業が理想とする人材をしっかり確保すべきか。業界イメージの向上が急務だと言える一方、遊技経験があり、業界の動向もそれなりに理解している学生は、そもそも応募自体をためらう傾向にあるらしい。阿部氏の指摘は興味深い。
「新規出店が旺盛だった時期ならばともかく、業界の事情をなまじ知っているからこそホール運営企業の求人に応じない。新規出店がさらに滞っていけば、おのずと将来のポストもかぎられてくる。正社員として長く働きたい学生はこうした理由で尻込みするのかもしれません」
首都圏で複数のホールを運営するB社の人事担当者は、阿部氏の指摘を渋い表情で受け入れた。
「店長が出世のゴールとまでは言えませんが、ポストの話をされると正直痛い。今後の長い会社員生活の道筋や目標をどのように示していけるのか、これもホール運営企業が抱える大きな課題です」
かつて、ホール運営企業への就職は店舗で経験を重ねたアルバイトからの叩きあげが多く、新卒採用を積極的にはじめたのは業界最大手のマルハンだったとされている。20年ほど前のこうした動きに刺激を受け、同業他社も組織内に新しい息吹を取り込もうと新卒の採用を競うように推しすすめてきた。しかし、Aさんの危惧は採用担当者ならではだ。
「学生が就職に求める事柄と採用側の期待とにギャップがあれば、せっかく就職してもらったところでミスマッチが生じます」
降格も視野に入れた人事制度
下のグラフは経済産業省が毎月公表している「特定サービス産業動態統計調査」のデータのうち、2018年度の「事業所数」と「正社員」に関する数値をグラフ化したものだ。「事業所数」はあくまで全国年間売り上げのおおむね70%をカバーする企業ないしは事業所の数にすぎないが、「正社員」数の推移を見ると、4月に採用されたと思われる「正社員」が5月にかけて減っていく。これがおそらく就職先にミスマッチを感じた離職者の動向だろう。その後の急増は5月に入社時期を迎えた第二新卒やアルバイトからの登用、あるいは中途採用者の数だと考えられる。
「事業所数」の減少にともなう6月以降の推移はともかく、企業と「正社員」のあいだに生じたミスマッチは採用コストの上昇をまねきかねず、人事戦略の見直しも迫られる。サービス業の人員確保は業態にかぎらず困難な状況であり、給与の引き上げにもおのずと限界があるはずだ。企業間の垣根にとらわれない「情報交換交流会」の意義を先のAさんが重ねて強調する。
「会合の参加者に採用で競いあうといった考えはなく、まずはパチンコ業界にひとりでも多くの新卒者を迎え入れ、働きながら感じた印象をSNSなどで後輩たちに発信してほしい。企業説明会などでも学生自身は業界への抵抗感をあまりもっておらず、わたしたちの業界は『不人気』なのではなく、『不認知』であることにあらためて気づかされます。新しく迎え入れた社員といかに向きあい、彼らがもつ向上心にちゃんと応えていけるのか。各社の取り組みと経験を共有できる機会は貴重です」
異業種にくらべ、パチンコ業界は給与や年間休日などでけっして引けをとらない。入社後、ほんの数年でホールのチーフを任され、責任をともなう仕事も託される。マネジメント能力を培うには格好の職業だろう。
ただ、ホールでどれだけノウハウを積み重ねても独立開業がめざせるような職種ではなく、新卒入社のあと、定年まで働きつづけてきたモデルケースすら存在しない。入社から3年までの離職率がほかの業種では30%程度だとされるなか、「パチンコ業界では45%ほどにのぼるのではないか」と指摘する声さえ聞こえてくる状況にホール運営企業はどのような対策を講じるべきなのか。B社の人事担当者は次のように言う。
「店長からの降職もありうる人事考課制度や役職に限定されない業務の分散化など、社員の個性や能力にあわせたポストの新設が今後は求められていくことになるのかもしれません」